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<アロマセラピーの歴史>
近代以前は「薬」と言えば「薬草」のことを指しました。「薬草」は、煎じて飲用したり、膏薬を作って塗布したり、ペーストを作って湿布したりと様々な用法で使われて来ました。また「薬草」に含まれる「精油(Essencial
Oil)」の作用も古くから知られていて、植物をいぶしてその煙りを浴びたり、インセンス(お香)のような形で薫香を流し、その作用で感情をコントロールしたり、媚薬として利用したり、瞑想や祈りの場等で利用されてきました。「精油」を積極的に使った一番古い記録は古代エジプト文明に残っています。紀元前3000年以上前のパピルスにその記載があったり、一節には7000年以上前から「精油」の存在は知られていたと言われます。当時からオイルランプによる芳香浴や薬草風呂、美容法等、多岐にわたって利用されていました。「精油」は他にも人体を腐らせない目的でミイラ作りにも応用されています。ミイラの語源となったミルラをはじめ、フランキンセンス、ローズマリーなどはもっとも古くから使われていた「精油」です。
もう少し歴史を下ると、今から2500年ほど前の古代ギリシア時代に、医学の始祖といわれるヒポクラテスが、植物の癒しの力を薬草風呂やオイルマッサージなどに取り入れていた記録が残っています。また2000年前、かのイエス・キリストはたくさんの人を癒したとされますが、「聖書」に残るその癒しの手法は「手を当てる」「香油」を塗るなど、現代の視点で見るとそれはまさに「アロマセラピーの処方」そのものと言えます。
「日が暮れるといろいろな病気で弱っている者をかかえた人達が皆、その病人をみもとに連れて来た。イエスは一人ひとりに手をおいて癒された」
(ルカによる福音書4章)
「何人かの者の上に、彼はその手をおいた。すると彼らは癒された。(中略)またその他の者に、彼は聖なる油をぬった」
(アクエリアン・ゴスペル)
聖書には「香油」という表現がいたるところで登場します。「香油」とは、ハーブ等薬用植物を、植物性の油に漬け込ませて「精油」等の薬効成分を抽出したマッサージオイルのことを指します。それは、宗教的な意味もあって使われたのですが、宗教家ではなく、治療家の一人としてイエス・キリストを見るならば、今でも<世界で最も有名なアロマセラピスト>ということができるでしょう。
またローマ時代、特権階級だったローマ市民たちは「薬草風呂(ハーブバス)」に好んで入りました。カラカラ浴場に代表される公衆浴場施設は、ローマ市内だけでも3000以上あったとされています。ローマ人が「薬草風呂」に好んで使用したラベンダーは、この時代にローマ人たちの手によってヨ−ロッパ中に広められました。ラベンダーの語源である「ラバーレ」は「洗う」という意味のラテン語です。
しかし中世に入ると、こういった植物療法の知識や薬草風呂に入る習慣は、急激に廃れて行くことになります。中世期の約500年間は、非常に権威主義的なキリスト教が社会的な地位や価値観までも掌握していた時代です。その中にあって植物療法や占星術の知識、ヒーリングの力を持った<癒し手>たちは「異端」「魔女刈り」の対象になり、社会から排斥されてしまいました。
「精油」は、歴史の表舞台から一旦消えてしまいます。しかしアンダーグラウンドな世界では「錬金術師(アルケミスト)」たちが「不老長寿の妙薬(エレキシル)」を作り出すために「精油」を非常に研究していたことがわかっています。「錬金術師」たちは、生命力の根源にあたる物質「精髄(クインテッセンス)」を抽出する目的で「精油」の可能性を探っていたのでした。彼らは、近世に入ると「化学者」と呼ばれるようになり、歴史の表舞台に登場してきます。
「ハーブ医学」として「薬草」や「精油」が再び脚光を浴びるのは近世の始まりである16世紀に入ってからです。12世紀にアラブで発見された水蒸気蒸留法によって、「精油」が現在のような純粋な形で抽出できるようになっていました。また、印刷の技術が発明され、こういった知識が一般にも広がりました。「薬草誌(アン・ハーバル)」といった有名な博物書が出版されたり、ニコラス・カルペパー等の有名なセラピストが登場したのもこの時代です。都市の人口が増え、衛生的な問題から、コレラや「黒死病」と呼ばれたペスト等の疫病が流行ると大きな被害になることもしばしばで、人々は「魔」を払うためにローズマリーを持ち歩いたり、病院内でセージやジュニパーを焚きしめたという記録が残っています。
しかし、一方でもう一つの動きがありました。「近代医学」と「化学薬品」の登場です。17世紀後半、フランス人ルネ・デカルトが唱えた、物事を分けて分析する「要素還元主義」と心と身体を分けて考える「物心二元論」・・。そこから端を発した近代医学は、解剖学、細菌医学と18世紀には飛躍的な進歩を遂げました。そして石炭、後に石油から合成された「化学薬品」の劇的な効能に人々は魅了されたのでした。19世紀後半に発見された「抗生物質」の登場すると、その流れは決定的なものになります。その勢いは「近代医学さえあればすべての病が克服される・・」と人々が考えても不思議ではないほどでした。そして、20世紀に入った頃、人々は「精油」の癒しの力をすっかり忘れ去っていました。「精油」は香料としてのみ扱われるようになっていたのです。
今、文献をひも解くと、19世紀末頃・・医者の往診鞄の中には、20種類程度の「精油」が入っていたという記録が残っています。近代医学の医者も「精油」を使いこなしていた時期があることがわかります。しかし、大学の医学部でこういった歴史を学ぶことはありません。
確かに、近代・・そして現代医学が私達の生活にもたらした恩恵は非常に大きなものがありました。身体の構造や、病気の知識はミクロの世界に達し、手術の技法、機器の進歩によって、かつての不治の病や、致命傷の多くが克服されました。
しかし、20世紀半ばになって人々はこの考えに盲点があることに気付き始めました。「化学薬品」はあくまでも副作用があること。病の知識はどんどん増えても、病は減っていないこと。「近代医学」の進歩している先進国でストレスに悩む人が増え、「心身症」「ストレス病」と呼ばれる症例が増加の一途をたどっている等・・それは、「心と身体を分けて考えよう」とスタートした近代医学が、一番取りこぼしてしまった部分だったと言えるでしょう。
1960年代頃から、欧米を中心に再び自然素材、有機栽培、伝統療法等が注目され始めました。この流れの中で、ホリスティック医学という考えも誕生しました。これに先立つこと30年、1928年にフランスの香水研究者だったルネ・モーリス・ガットフォッセ博士によって「アロマテラピー」という本が出版されました。彼は実験中に爆発事故に合い、腕に大火傷を負ってしまったのですが、香水の原料として傍にあったラベンダーの精油にとっさに腕を浸けることによって、ケロイドや化膿もなく完治してしまったことに驚き、「精油」の薬効について研究を重ねていたのです。この本の出版によって、植物療法のひとつとして存在した「精油」による処方が「アロマセラピー」という新しい分野として独立したのでした。
その後、ガットフォッセ博士のもとで学んだジャン・バルネ医学博士が、数多くの臨床を経て1964年に出版した「アロマテラピー(日本語訳/植物・芳香療法)」という本は、医師の著作ということで大きな反響を呼び、アロマセラピーがフランスをはじめ西欧諸国広がって行く基礎を作りました。また、同年マルグリット・モ−リ−女史が書いた「THE
SECRET OF LIFE & YOUTH」という著作には、精油と美容、精油とマッサージについての記載がありました。それは、古代ローマ時代以来、1000年近く忘れ去られていた「アロマオイルトリートメント」が復活した瞬間でした。その後、アロマセラピーは70年代にフランスで、80年代にはイギリスで一躍ブームになりました。
正式にアロマセラピーが日本に紹介されたのは、1977年にイギリス人ロバート・ティスランド著作の「THE ART OF AROMATHERAPY(日本語訳/アロマセラピーの理論と実際)」が1985年に日本語訳されたのが始まりです。私の師であるJHAS・JCHS会長の今井先生は、イギリスでこの本の原書を読んだと聞いています。今井先生はアロマセラピ−暦30年以上ですから、アロマセラピーが日本に紹介されるかなり以前のことです。我が国におけるアロマセラピーの歴史は、まだ25年ほどです。アロマセラピーはまさにこれからの研究分野とも言えます。
1990年代に入って、いくつかの「精油」が、嗅ぐだけでセロトニンやβエンドルフィン、エンケファリンといった脳内ホルモンが分泌されることが解明され、「精油」がメンタル面に大きな影響を及ぼすことが科学的に証明されました。脳内分泌物質:ホルモンはこれからの研究分野ですが、「精油」にもまだまだ解明されていない成分があり、21世紀に入ってますます注目されています。ましてや「精油」の「自然治癒力」を高める作用や、波動(エネルギー)的な側面の研究は、今世紀の大きな課題となるでしょう。 また、心と身体を分けることなくその両面からアプローチできる「精油」の作用は、ストレスに悩む現代人にとって大きな恩恵となる可能性を秘めています。実際に「精油」は、今や医療関係、美容関係等プロの方達から注目されています。今後ますます研究・応用されていくと思われます。
JHASではこの「精油」の素晴らしい効用を、知識ではなく、自らの身体で感じ、「精油」を最高の状態で使いこなして行けるアロマセラピストを育てています。心と身体を分けることなく、メンタルな部分やオーラ、気の流れ等を理解しつつ「精油」のエネルギー的な側面も考慮して使いこなしてゆける...それは、まさに数千年連綿と続いてきた「伝統療法」としてのアロマセラピーを今に伝えるセラピストを育成していると言えるかと思います。来たるべき『癒しの時代』に向けて....。
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